糖尿病の食事療法が難しいのは、単にカロリーを控えるだけではダメだからです。単純に摂取カロリーを制限するのならば、それこそ断食すればいいわけですが、もちろんそうはいきません。必要なカロリーを栄養素のバランスに注意しながらきちんと取る、これが糖尿病食事療法の本質です。
食事療法では、一般に自炊が推奨されます。それは、自分で作るものならば、計量の手間さえ惜しまなければ、カロリーも栄養素のバランスもきちんと把握できるためです(そのための方便が「食品交換表」です)。外食ではこうはいきません。出された料理を見て、何がどのくらい使われているかを把握するのは難しいからです。
ところが、最近は少し事情が変わってきました。大手のコンビニ、ファミリーレストラン、ハンバーガーショップなどが、カロリーや栄養素の量を積極的に表示するようになってきたためです。これは食事療法に活用できそうです。題して「あなたまかせの糖尿病食事療法」
2000Kcalの糖尿病食を作ります。栄養素の構成は、たんぱく質85g、脂質55g、炭水化物300g以下です。食品交換表には指示カロリーによらず、果物80Kcal(炭水化物20g)、乳製品120Kcal(たんぱく質6g、脂質7.5g、炭水化物9g)、野菜80Kcal(たんぱく質5g、脂質1g、炭水化物13g)を摂取せよとあります。これは、牛乳180ml、バナナ1本、野菜もろもろ300gで済ませ、残る1780Kcal(たんぱく質74g、脂質46.5g、炭水化物258g以下)を某大手ハンバーガーショップのメニューで取ることとします。
このハンバーガーショップのメニューは28種類。その大半は、脂質が過剰で炭水化物が不足です。例えば、一番シンプルな「ハンバーガー」でさえ、総エネルギー251Kcalに対し、たんぱく質12.7g、脂質8.5g、炭水化物30.9g。7個食べれば総エネルギーをほぼ満たします(1757Kcal)が、たんぱく質、脂質がオーバー(それぞれ88.9g、59.5g)、炭水化物は不足気味(216.3g)です。三食をハンバーガーショップで済まそうとすると、食べられるものは極めて限定されます。
最終的にはパソコンの力も借りてすべてのメニューの組み合わせをチェックしました。その結果、食事療法に耐えうると判断された組み合わせはたった1種類でした。
ハンバーガー5個、プチパンケーキ3個(1735Kcal、たんぱく質74g、脂質55.4g、炭水化物235.8g)+牛乳180ml、バナナ1本、野菜もろもろ300g
これを偉大な一歩と見るか、やっぱり「正攻法」を学ぼうと見るか。あなたはどちら?
「くらしと医療」2005年10月号