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                                             薄上秀男

 昭和六十二年、福島県喜多方に普及所の所長として転勤を命じられて赴任
した。盛りだくさんの事業で毎日多忙をきわめた。 糖尿病が発症したのは二
年目の暮れ、であった。
 ハウス病克服のために注意してきた食事が、単身赴任によってガタガタと
崩れてきたことが誘因になっていると思う。会議会議の連続、仕出し弁当な
ど着色料、保存料いっぱいの出来合いの食事。宴会、二次会、三次会が続き、
宿に泊まれば朝食は色づけ・防腐剤入りの梅干しや漬物。これでは身体も悪
ならないほうがおかしい。
 糖尿病が発症したちょうどその日は、今後の水田利用再対策にどう対
処してゆくかの会議が開かれていた。その会議ゆ真っ最中に発症した。
、十時になったので司会をしていた私は、休憩を宣言してトイレに立とうと
足を一歩踏み出したところで転倒してしまった。「所長、どうした」側にい
た次長から声をかけられ、どうしたのかなと自分でも思いながら足に手をや
る。全然感覚がなく動かない。ズボンの端をつかんで足を持ち上げながらト
イレに行き、靴下を脱いで驚いた。足の親指がぶらりとぶら下がっている
(筋力がなくなるとこのようになっしまう)。それでも午前。中の司会だけ
は務めて病院に行く。
 院長に話したところ、「血糖値を測、定してみましょう」といいながら、担
当医を呼んだ、測定結果は血糖値約700(正常参考値は70〜110くら
い)、即刻入院といわれたが、事務の整理もあるので事務所に戻る。
 そこからすぐに地元いわきに戻り、主治医と相談する。ここでも入院を勧
められたが、食事療法、運動療法を必ず守るということで自家療養とした。
温泉ブールでリハビリ 当時70sを超えていた体重を60
sを目標にして、摂取カロリー16OOカ回リー、食品交換表にもとづい
て定められた単位ごと必ず実行する。タンパク質、炭水化物、脂肪、ビタミ
ン、ミネラルを必ず考慮に入れ、朝昼晩平均してとるように努力した。
 特に糖尿病は昔から肥満が原因だと、いうことを聞いていたので、食事療法
と合わせで運動療法に重点を置いた、足の感覚がなく、普通には歩けないの
で毎日温泉通いである。、幸い、近くに常磐ハワイアンセンタ
ーという温泉があり、昔から糖尿病に効果があるどいわれていた。そこでそ
この50mブールを利用して歩くことにした。最初は往復一回、次の日は2
回、次は3回と努力目標を定め、プールの縁につかまりながらのリハビリで
ある。
 この方法が効を奏し、約一週間で指先に感覚が戻ってきた。その後、この
リハビリを一カ月ほど続行した結果プールの外でも歩けるようになった。
以後、入浴して身体を軟らかくしてから廊下を歩き、最後には階段の上り下
りも行ない、負荷を強めていった。 この運動療法と食事療法のおかげで
三カ月後には体重も目標値に近くなり、あれほど高かった血糖値も食後1
時間の高いときでも200を割るようになった。

  糖尿病に効果があの食品で完治を目指す。
 こうなると人間欲が出てくる。「糖尿病は一生活らない。友だちとして上
手につきあいなさい」といわれていたことをすっかり忘れ、何とか治そうと
する。いろいろ文献をあざると、ビタミンのA、E、B2、B3、B4、B5、B6、B12、
C,Qと、ミネラルのカルシウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、マンガ
ン、クロム、イオウ、アミノ設のリジン、トリプトファン、スレオニン、バ
リン、イソロイシン、ロイシン、フェニールアラニン、メチオニンが困係が
深いことがわかった。「その中でも特に、ビタミンB6、C、ミネラルの亜鉛、ク
ロムが重要なのを知った。ビタミンB4を多く含んでいるもの
はビール酵母、。小麦胚芽、肝臓、腎臓、マグロ、サバ、大豆、玄米、ビタミン
Cの多いのは濃緑野菜とカンキツ類。亜鉛oの多いのはカキ貝、アサリ、肝臓、
肉類、卵、大豆。クロムの多いのは牛肉、肝臓、カキ貝、ハマグリ、ジャガ
イモ、卵であった。このほかに食物セイが重要であることを知り、玄米食
を主食とし、それに具だくさんの味噌汁、おかずに肉類、肝臓、卵それにカ
キ貝にレモンの酢の物、漬物、それに豆乳とビール酵母を主体の献立にし
た。
 この献立にしてからは、血糖値は急激に低下し、最高が120前後、最低
は90以下とほぼ平常値になった。このような経過をたどり反省してみる
と、どうも健康診断で指摘されていた高脂血症になるのを恐れて、「カ」や
「コ」のつくもの(「カ」のつくもの…カステラ、カバヤキ、カツオブシなど。
「コ」のつくもゆ…タマゴ、タラコ、スジコ、カズノコなど)と、動物性の
食品を摂取しなかったことが糖尿病になる原因だったかと思うようになっ
た。
   追究!
 一番効果のある食品は何だ。そうなると不思議なもので、前々の
ことなどはすっかり忘れて、肉、卵、肝臓、カキ貝をと動物性の食品とカン
キツ類を多くとるようになる。
 ここまではよかったのだが、その後が悪かった。持ち前の研究心が頭をも
たげてきた。それでは動物食品の中で何が一番早く糖尿病に対して効果が出
るのか、カンキツ類の中では何が一効果があるのか、を知りたくなった。
 自分の身体で確認してみよう、と思ったが、すでに平常値に戻っている
のでもう一度糖尿病にする必要がある。砂糖たっぷりのコーヒーを飲んだり
、甘納豆一袋を食べたり、カリン糖を食べたり、いろいろやったが血糖値
が上がらない。・白米を大食したり、日本酒を飲んだりしているうちに血糖
値は上がってきた。知りたい種類を食べては30分後、一時間後、2時間
後と血糖値を測ってみた。
 亜鉛合量の極めて高いカキ貝は血糖降下の効果は高いのだろうと思ってい
たが、むしろカンキツ類のほうが早い。それよりも早いのは動物のモツ類で、
そめ中では特に肝臓がよい、肝臓は定着効果こも高い。ところが、カキ貝とカ
ンキツ酢を同時にとると血清降下効果も定着効果もより優れていることがわ
かった。そして低血糖障害もない。(注1)定着効果・・・薬品の場合、飲んだ日は
皿糖値は下がるものの、次の日はまた上がります。ところが食物の中には、
食したときに血糖を下げ、しかも次の日もあまり血糖恒値が上がらないもの
があります。血糖値が上がらないうちにまたその食物をとると上がらな
い日が長く続きます。このよう現象を私は「定着効果」という勝手な呼び方を
しています。
(注2)低血糖障害・・・血糖降下剤が少し多すぎたり、あるいは食事をしなかっ
たり、あるいは運動量が多すぎると血糖値が下がりすぎ、冷や汗をかいた
震えたり、時にはけいれんや昏睡を起こします。ところが食物で血槍降下を
した場合、低血糖によるこれらの障害は出ない。

  究極の糖尿病療法?_!
  ユズの丸ごとジュース
 このようにいろいろ試しているうちに、それでは一つの方法で(一種類で)、
血糖降下効果も定着効果も高く、量が多くても低血糖障害が出ない方法はな
いか、と考えるようになった。
 ありました。それはユズの果実全部〜呆皮、呆肉、種子をジュースにして)
を利用する方法だ。
 ユズの果実(大きい場合は半量)を、果皮、果肉、種子全部をミキサーにか
ける。それだけでは回転しないときは100tほどの水を加える、よく砕け
たものはそのまま、粗い場合は濾過する。苦みみが強くてロウ臭くて飲みにく
いが、これを一旦二回飲む(注意・ユズはカリ分が多いので、カリ分をとれ
ない人は医者と相談すること)。
 この方法で7、10日利用すると、定着効果が長く続くようになる。その
効果がなくならないうちに(尿糖試験紙で確認しながら)再び飲む。 私の場
合、7日ほどで定着したので、その後はユズをやめ、料理の仕方によっては
おいしい肝臓を毎日食べ続けたところ、糖尿のほうはほぼ平常値で経過した。
 ユズを選んだのは、カンキツ類の中でも糖尿病によいというビタミンCが
レモンやカボスの倍も含まれており、そのほかにビタミンA,Bも含まれて
いる。なおかつ、亜鉛やクロムなども多い、種子も一緒に飲むことにしたの
は、タネは生命全体の凝縮されたものだからだ。
 ところが、肝臓の食べすぎか、平成3年11月10日、虚血性心筋梗塞に
なった、バルーンバンビング法によって、冠動脈内血栓を取り除いた。退院
後の食事は動物性のものはあまりとらず、後は普通の食事をしているが、
現在のところ異常はないようだ、
  
(現代農業平成10年2月号より)